ファントム×カウンターSS「国守のつとめ」 著者:七氏

ファントム×カウンターSS「国守のつとめ」 著者:七氏 – 怪異対抗奇譚TRPG『ファントム×カウンター』 ルルブ無料公開!現代異能オリジナルTRPG制作中!ファントム×カウンターSS「国守のつとめ」

国道10号線。
鹿児島県を横断するように伸びるそれは、交通の要である。
竜ヶ水。
姶良と鹿児島の間にある、海と山に挟まれた細長い地域であり、その狭い地域に10号線は走っていて、そして交通の便としても利用者が多いため、常にと言ってよいほど道路が混雑する地域でもある。
日付変わり2時10分
丑三つ時である。
この時間帯はさすがに車の便は無く、あたりは静まり返っている。
いや、静まり返り過ぎだ。
ここは竜ヶ水である、つまり海と山に挟まれた地域であり、それならばさざ波の音、木々のざわめきなどが聞こえても良いはずだ。
しかし無音――
耳鳴りがするほどの静寂に、声が響いた。

「よか夜じゃっど」
青年がひとりごちた。
漆黒を思わせる錦江湾、その波上にそびえたつ火山島。
桜島は今宵も噴煙を上げていた。
ここから見える桜島は良い。雑然とするビル群もなく、ただただ雄大な桜島が、迫るような大きさで眺められるのだから。
そうして彼が風景を楽しんでいると、ふいに背後から声がかかる。
「結界を張り終わったよ、あー眠っ!」
そう気怠そうに言うと、大きく背伸びをする少女。
年のころは同じであろうか青年と少女は、鹿児島市内にある国守学園の制服を着ている。
対抗者(カウンター)だ。

都市として長い歴史を積み重ねれば、それは神へと至る。
その進化の行程で、どうしても出てくる邪魔者がある、それを時には調伏し、もしくは協定を結び、沈静させるのがカウンターの主な役割だ。
つまり彼らがここにいて、そして結界を張ったという事実は、ここに善からぬモノがいるということだ。
おあつらえ向きな丑三つ時に、無音の世界、そして国守学園の少女が展開した結界が、錦江湾に幾何学的な輝きを見せる。
そこは世界から隔離された、異界であった。
「さぁて、来るかいね」
青年が腰のものを抜く。
それは日本刀だった、あまりにも自然に“するり”と抜く姿は堂に入ったものだった。
彼は真っ直ぐに目前の国道10号線を見据える。
「え、ナニ、もう来るの?」
青年が日本刀を抜いたため、慌てて少女も気持ちを切り替えた。
そうするとカーブの向こう、つづら折りのような海岸線の道路に、人影が奔った。
それは人とは思えぬスピードで走る老婆であった、おそらく時速100キロ以上は出ているであろうそれは、明らかに異常であった

≪ 怪異/都市伝説/ターボばあちゃん ≫

都市は伝承を持つが、それは大きく二つに分けられる。
古いか新しいかだ。
古いタイプの伝承は、その土地の土着伝承であり、それこそが千年の歳月を持つ鹿児島が神へと至るために必要な土台である。
しかしそれが新しいものであれば、違う。
近代に伝承されたそれは、都市特有のものであったが地域特有ではない。近代文明は地方文化を殺し、ただ都市だからこうであるという、いびつな伝承を全国に発信した。
それは土着文化を土台にする鹿児島にとっては、毒であった。
そのような雑音は受け入れられない、カウンターはそれを殲滅対象とする。
すっ――と青年が構えた。
右半身に掲げるように刀を持ち、その切っ先は真っ直ぐに天を衝く。
鹿児島にある示現の構えである。
「行っど!」
怪異、都市伝説を目視した青年、名を坂口一貴という。

≪ 対抗者/古流剣術/示現流/主要行為(メジャーアクション)/一ノ太刀 ≫

言うが一番に駆け出す、彼の視線の先には疾駆する都市伝説。
ただ真っ直ぐに、敵を叩き伏せるために渾身の一撃を――
「ああっ、いつも待てって言ってるのに」
それを見た彼女は詠唱を中断、代々から神社の家系である巫女、名を花園優紀という。
変更する術式を主要(メジャー)から反応(カウンター)に、身体強化から防御障壁へと変更する。
「っちえぇぇ!」
一貴が叫び、その渾身の一撃が振るわれる。
時速100キロ超で走る都市伝説と、それに正面からぶつかる剣戟、それは一瞬で結果が出た。
振るわれた攻撃を、都市伝説ターボばあちゃんはこともなげに躱す。
もとから素早さが違う、しかしその身のこなしは最小限の動きであり、そしてそこからターボばあちゃんが反撃する。

≪ 怪異/都市伝説/ターボばあちゃん/口伝再現 ≫

この怪異には複数の名がある、ジェッットばばあ、ダッシュばあさん等々、それぞれ細かく特徴も違う、しかしこれら怪異は都市伝説として同一視され、口伝として近代の都市に語られる。
そしてこの怪異/都市伝説は“対象と並走し、それを追い越す”という共通の特徴があった。
最小限の動きで剣戟を躱し、そのまま距離を開けて反転し、そして対象を追い越すために時速100キロで彼の背中に迫る。
ごちゃっという鈍い音と共に、一貴の体が高速でバウンドし、そのままガードレールに突っ込む。
一瞬の静寂、彼はそのままピクリとも動かない。

「あ――」
まずい、と花園優紀は思った。
まず第一に、坂口一貴は生きている、これは間違いない、何故なら彼女の術式が発動したからだ。

≪ 対抗者/巫女/対象反応(ポイントカウンター)/障壁展開 ≫

一貴がターボばあちゃんと激突する刹那、彼女の術式が自動展開し対象を保護、ただ威力は完全に殺しきれずに、ああなったのだ。
それにこの程度で死んでいるなら、既に何度も死んでいる。
しかしそこからが問題だ、何せ彼が前衛で彼女が後衛、ほぼ補助特化型の彼女は怪異に対しての直接的な対抗手段はない。
そして今の状況、これは怪異を挟んで前衛、後衛が分断されている、非常によろしくない状況だ。
そう思うが早いが、優紀は術式を再び展開する、とにかく今は時間を――
と、ターボばあちゃんがくるりとこちらを向いた。
しわくちゃの顔は梅干を連想させ、そしてその口元は下弦の月のように歪んでいた。
嗤った――
「ひっ」
あやうく集中を切らしそうになる、先の衝突がフラッシュバックする、彼女はそれでも下唇を噛み、次の術式を展開する。
怪異がこちらに向かってくる、初めは歩きだったのが駆け足に、そして疾走に変わろうとした時――
「きぃえぇぇぇぇぇぇぇ!」

≪ 対抗者/古流剣術/示現流/補助行為(マイナーアクション)/猿叫 ≫

坂口一貴は立ち上がっていた。
だらだらと頭部から出血しているが、その立ち姿に怯みはない。
彼はスキルによって怪異の注目を自分へと向けさせた後、絶叫した。
「お前ぇの相手は俺ぞ、どこを見ちょるがぁ!」
そう吠えた後、再び構える。

≪ 対抗者/古流剣術/示現流/主要行為(メジャーアクション)/一ノ太刀 ≫

彼の悪い癖である。
“一の太刀を疑わず、二の太刀は負け”の信条を持ち、複数ある有効なスキルを埋没させ、彼は一撃で敵を仕留めることにこだわる。
もはや病的と言ってよいほどの信念だが、彼はこの信念であらゆる怪異を屠ってきた。
例え鬼だろうが龍だろうが、支配者だろうが悪神だろうが、である。
「行っど!」
彼が一歩を踏み出す、迷いは全くない。
「行っど、行っどッ!」
鼓舞するが如く連呼する、既にその足は駆け出している。先の結果など無かったかのように、再び剣戟を繰り出すために、強く強く地面を蹴る。
「行っど、行っど、行っどッ!」
対する敵、ターボばあちゃんもこちらに向き直り、既に駆け出している、その加速はあっという間に時速100キロをオーバーした。
「ちぃぇえすとぉぉぉぉぉお!」
先の再現、加速した両者が交錯するが、しかしターボばあちゃんの足ががくっと止まった。

≪ 対抗者/巫女/主要行為(メジャーアクション)/鈍足の罠(トラップスロウ) ≫

彼女、花園優紀が放った妨害術式は怪異のスピードをそぎ落とし、坂口一貴が一撃を命中させることが可能なレベルまでに至らしめた。
刮――
剣戟は怪異の脳天をとらえ、そのまま唐竹割に、そして地面へと突き刺さった。
「わぁお」
優紀が絶句する、相変わらず一撃で決めてしまう彼に、思わず身震いした。
そしてそのまま霧散する怪異、ばらばらになった雑音はまっさらになって鹿児島へと還るだろう。
「良か」
刀を一振りして雑念を払うと、そのまま鞘に収めてふぅと一息。
「いや、良かじゃないが」
それに噛み付くのは花園優紀、いつもいつも言っても聞かぬが、やはり言わねば気が済まない。
「なんでまた飛び出した、どーしてまた飛び出した、もうこれで何度目よぉぉ!」
仲間内では鉄砲玉のように言われている彼、それのパートナーとして付き合ってきたが、これをどうにかしないといつか死ぬ、そういう心配3怒り7のブレンドで小言をまくしたてる。
それに対しての一言は。
「まぁ良かがな、怪異も解決したし、良かがね」
これである。
なんとも呑気にまぁまぁと手であやすしぐさをする、いつものパターンでどっと疲れが来た。
「あぁもう…」
一事が万事この調子であるが、これでも少しずつ改善はされている、されていると良いなと思う優紀だったが、実のところ一貴の戦い方は出会ってから一つも変わっておらず、実は優紀のスキルが彼の戦闘に合わせるようになってきており、それが上手い具合に作用して、少しずつはよくなっているかな?という錯覚を生んでいるのである。
ともあれ彼女は結界を解く準備に入ろうとする、そのあと学園に連絡して道路の封鎖を解いてもらわなければならない。
時間は午前2時15分。
明日の授業には差し支えないかな?と呑気に考えを巡らしていると、一貴が鋭く声を上げる。

「オイ優紀、まだ終わっちょらんぞ!」
「は――!?」
間抜けな疑問符を浮かべながら振り返ると、きらきらと輝くナニカが集合し、それは恐ろしいモノへと変貌していく。
「は、破壊者ッ!」
それは龍だった。
この竜ヶ水における災厄、洪水と土砂災害を体現した存在。
無味無色の怪異、都市伝説を触媒にして、様々な外なる存在が干渉してくるのは知っていたが、あまりにも不運だ。
こちらはカウンターが二人しかいない、破壊者は自然災害そのものの体現者であり、その討伐には少なく見積もっても3倍の戦力は欲しい。
「さ、退がるよ、何とか学園に連絡を――」
狼狽しつつも的確な指示を出す、その優紀の声は止まった。
一貴は既に刀を抜いて見据えている。
破壊者を見て、嗤う。
「良か、良か獲物じゃ、こん獲物は俺のだ」
破壊者が、荒ぶる水神が鎌首をもたげる。
ああ、もう。
優紀は心の中で嘆息した。
彼はやる気だ、これも彼の悪癖、後退という言葉を知らないのか、どうしたって前へ、前へ行こうとする。
これが終わったらパートナー変えてもらうんだ。
優紀が半ば思考の逃避を始めたころ(それでも術式の展開は忘れてないが)破壊者と対抗者は激突した。

今朝のローカルニュースでは、竜ヶ水の一部が土砂災害で通行止めとなっていることを放送していた。
あの地域の土砂災害は珍しくもないが、しかしこの時期に珍しいなと疑問に思ったが、時計に目をやりそんな疑問はすぐに霧散した。
私は地元高校に通う1年生である。
隣の幼馴染とは腐れ縁で小中学校が同じだったが、今では別々の学校に通っている。
何でも山の上にある国守学園に、スポーツ特待生として入ったとか。
まあそんなことはどうでもいいけどねーと玄関を開けると、ちょうど幼馴染が帰宅するところに出くわした。
「オハヨ、なに、また喧嘩?」
「そげじゃなか、こいも修行よ」
ボサボサの頭に泥と擦り傷だらけの体、制服も買い替えた方が良いんじゃないかというくらいにくたくただ。
国守学園に入学してからこっち、ずっとこの調子だ、ただ今回のように朝帰りは珍しいが、それでもこんな風になって帰ってくるのは、お隣として気が気でない。
あくまでお隣として気が気でないのだ。
「ちょっと、本当に大丈夫?」
その声には本気の心配が混じっている、最もこんなことは何回もあったやり取りだ、いっそ国守学園からの転校も促した、しかし彼は頑なにそれを拒否するのだ。
いったい何をやっているのやら。
昔から無茶をする奴だとは知っていたが、それが最近では特に顕著だ、しかもどんどん度合いが激しくなっている気がする。
「大丈夫だが…」
一貴はあった視線をふいと逸らし、めんどくさそうに手を振りながら自宅に入ろうとしている。
また話を逸らされた、そう思い俯いて歩き出す彼女に、一貴が声をかけた。
「お前、学校は楽しかか」
質問の意味が解らないが、思わず「うん」と返した。
「そうか、そいは良かな」
そう言って一貴は破顔し、家の中へと消えていった。
しばしフリーズした後、登校中だということに気づいた彼女は足早に学校へと向かう。
その顔がニヤけていたのに気付くのは、クラスメイトに指摘さてからだった。

一方、国守学園では花園優紀がパートナー解消をマイティオールドの妓坐姫に涙ながらに訴えていた。