ファントム×カウンターSS「雨濡れたキロ」 著者:fran死体

ファントム×カウンターSS「雨濡れたキロ」 著者:fran死体 – 怪異対抗奇譚TRPG『ファントム×カウンター』 ルルブ無料公開!現代異能オリジナルTRPG制作中!『……と語る彼の目はここではないどこか遠くを……』
「すみません、もうすぐ閉館なんですが……」
声をかけられ顔を上げると先程まで明るかったと記憶している窓の外には夜の闇が広がっていた。
「ああ、ごめんなさい!すぐに出ますね!……っと、そうだ、コレの貸出手続きお願いします!」
慌てて退出の準備しつつ、今まで読んでいた本を司書さんに預ける。いつものこととは言え、
今日もまたやらかしてしまった。今日こそは日が暮れる前には図書館を出る予定だったのに。
そう、後悔しつつカバンに荷物を詰め込み玄関へと向かう。しかし、悪いことは続くもので、
室内からは分からなかったが、外は雨が降っていた。あいにくと傘の持ち合わせもない。
「仕方ない、走るか……」
諦めのため息を吐き、借りた本を濡らさない用を本を入れたカバンを懐に抱えて走り出した。
家までの距離はそう遠いわけじゃあないけど、普段から人通りも街灯も少ないから不気味なのだ。
今日は雨が降っているから尚更不気味さが増す。
「そういえば、あの話もこんなシチュだったなぁ~」
雨に濡れつつ走る中で1つの噂話を思い出した。

今みたいに雨降る夜に帰り道を急いでいる中、街灯の下に佇む人影に声をかけられるのだ。
「あの、一緒に探し物を探してもらえませんか?」
と、そうそう、こんな風に……
「……え?」
突然声をかけられたことにビビリつつも、声のした方を向くと街灯の下に図書館で顔を合わせた
司書さんの姿があった。
「あの、一緒に探し物を探してもらえませんか?」
目を合わせた司書さんは申し訳なさそうに同じセリフを繰り返した。正直、この雨の中に長くは
居たくないのだけど、いつもお世話になってるし濡れるのはいまさらだからしょうがないか。
「いいですよ、いつもお世話になってますし」
そう返事をすると、ありがとうございますと会釈を返された。司書さんが屈むのに合わせて自分
も街灯の下に屈み込んで辺りを探し始める。

いや、しかし、びっくりした。声をかけて来たのが司書さんで良かった。あの噂話じゃあ、声を
かけてくるのは顔のない人型をした何かで、探すのを手伝わなければその場で襲われて顔を剥がれて殺
されて、探すのを手伝っても結局襲われて同じ末路たどるんだよね。逃げる方法ってなんだったけ?
「それにしても、こんな日に災難ですね。何を落とされたんです?」
暗闇での沈黙が嫌で司書さんに声をかける。噂話から気を紛らわすためにも。
「そうですね。今日は傘を忘れるしさんざんです。探し物ですか?そうですね、卵型をしていて
タイガーアイみたいな丸いものが2つはまっていて……」
司書さんが話す間も、頭は噂話の解決策を探ることから離れない。

「……あれ?」
答えを探す中でふととあることが気になり、疑問が口からこぼれる。
「どうしました?見つかりました?」
「あ、ち、違います、気にしないでください」
自分の声が聞こえたのか、話を止め声をかけてくる司書さん。それに慌てて応えを返す。
その最中も頭の中の疑問は大きくなる。自分は司書さんよりも先に図書館を出た。それにここまでの
道は一本道だし、他の道だとかなりの遠回りになる。ここに着くまでに誰にも合わなかったし、追い抜
かれた記憶もない。それなのになんで司書さんは自分よりも先に……

「あ、見つかりました!」
そんな疑問に頭を巡らしていると、明るい声の発見の報告が聞こえてきて顔を上げるとすぐ目の前に
司書さんの足があった。
「見つかったんですね、良かったです、どこにありました?」
自分も明るく返しながら立ち上がると、司書さんの両手が自分の両頬を掴み、司書さん“だったもの”
が覗き込んできた。一瞬にして背筋が凍り、指一本動かせなくなった。
「ここにありました。とても素敵な私の欲しいモノが。これ、いただきますね」
先程までの明るい声から一転して、背筋どころか全身が凍りつきそうなほど冷たく、おどろおどろしい
声が口のない顔から発され、両頬を掴む指が痛いほど食い込んでくる。
「ぁああああああああ!!!!」
頬に走る痛みをきっかけに司書さん?の体を力いっぱい突き飛ばし、脱兎のごとく走り出す。も、数歩
も進まないうちに見えない壁にぶちあたり、激しく顔面を打ち付けてしまった。
「うそだ……これ、結界??」
痛む鼻を押さえつつ、空いた方の手で見えない壁を触る。そこには何も見えないが、確かに何かがある。
足元を見るとおよそ壁のあるあたりから、くっきりと明暗が分かれている。どうやら街灯の光が届く場所が
アイツの結界の中みたいだ。

「痛いですねぇ、もぅ」
そうつぶやく冷たい声と服を払う音が聞こえる。振り向くとアイツはゆっくりと一歩一歩こちらに近づい
てくる。アイツが近づくにつれてコチラの鼓動は早まっていく。意を決して学園証を制服のうちポケットか
ら取り出し、相棒の名前を呼ぶ。
「ミゾレ、ヒサメおいで」
抱えていた鞄は足元に投げ、学園証から呼び出した二振りの短刀を構える。正直、実戦は初めてで、膝は
ガクガク震えるし、息は整わないしでどうしたらいいか分からないけど、やらないと生きて帰れないことだ
けははっきりと感じている。

「刃物は危ない。危ないよ」
アイツは一本調子で声を発するけど、それが馬鹿にされているようで癪に障る。
「その顔、いただきますよ」
すぐ傍まで迫ったアイツが腕を伸ばしてくる。それをかいくぐり、伸ばしてきた腕を斬りつけるようにし
ながらアイツの背後に回る。しかし、斬りつけた刃は軽やかな動きで躱されてしまう。くそっ。
「怖い怖い」
アイツは絶対に馬鹿にしている!
「うわぁあああ!!」
腹立たしさが恐怖を超え、アイツを倒したいという勢いだけで連撃を仕掛ける。しかし、アイツはどの攻
撃も全て軽やかに躱していく。焦れば焦るほどに悠々と躱されてしまう。
「くそっ!あっ!」
十幾度目かの攻撃を躱された瞬間、足元がもつれ派手に転んでしまう。急いで体制を整えようと体を転が
すと、アイツが馬乗りになり体を押さてきた。あ、これが絶体絶命ってやつだ。
「さあ、観念してください」
相変わらずの一本調子でそう告げると、最初よりもずっと強い力で顔に指をく込ませてくる。
「ああああああ!!」
全力でアイツの腕を引き剥がそうと抵抗するけどアイツの腕はビクともしない。もうダメだ。
「街灯を壊せ!!」
完全に諦めかけたその瞬間に誰かの声が響き、気づけば地面に転がっていた鞄を街灯に向けて放り投げて
いた。ガシャンという音と共に街灯が消え、周囲が完全に闇に包まれた。アイツは街頭が壊されたことに動揺したのか、顔に食い込む指の力が緩んだのをこれ幸いと引き剥がし、そのままアイツを投げ飛ばす。

「焼き尽くせ」
自分がアイツを投げ飛ばしたのとほぼ同時にさっき聞こえた声がまた聞こえ、目の前を赤い何かが飛んで
いった。
「うばぁあ゛あ゛あ゛あ゛」
赤い何かが飛んでいった先で炎に包まれた人型が浮かび上がり、耳を塞ぎたくなるような断末魔が響きだ
した。その様子をただ呆然と眺めていると、次第に断末魔は消え、人型も崩れていった。炎の最後の一欠片
が消える頃に、助けてもらったお礼をしなければと思い出して周囲を探すがどこにもその姿は見当たらなか
った。まぁ、明日にでも学園で見つけてお礼を言えばいいか。あんなことができるのはうちの学園の学生だ
けだから、助けてくれた人もすぐに見つかるだろう。

「いてて……、それにしても、今日は本当に散々だ……」
そう、1人ぼやきながらカバンを拾い、街灯の明かりを頼りに帰り道をもう一度歩き出すのだった。気が
付けば雨は止み、空には行く道を照らす月が姿を見せていた。

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