ファントム×カウンターSS「幕間 新人参入」著者:七氏

ファントム×カウンターSS「幕間 新人参入」著者:七氏 – 怪異対抗奇譚TRPG『ファントム×カウンター』 ルルブ無料公開!現代異能オリジナルTRPG制作中!佐多みさきはつい最近、対抗者(カウンター)として覚醒した。
妖怪とそれを操る支配者に襲われ、その危機にスゴ腕の対抗者に助けてもらった。
それから保護され、簡易的な検査を受けて、そしてあれよあれよと事態は進み、いつの間にか国守学園に転入していた。
この諸事情に関する説明はクドイほど受け、鹿児島で起こっていることは、おぼろげながら理解していた。
千年都市、ねぇ。
佐多みさきはため息をつく。
まるでファンタジーやメルヘンだ。
しかし信じる他ない、その証拠は今までさんざん紹介されてきたし、それに初めて怪異と触れたあの日、坂口一貴が守ってくれたあの日、忘れることのできぬ、今でも鮮明に思い出せる怪異。
しかし――
「これはキッツイわ~」
目の前には分厚いマニュアル、対抗者の心得だ。
佐多みさきはパラパラとマニュアルを捲って、本日何度目かになるため息をついた。

事実、中途半端な時期である。
対抗者へのスカウトは、本来ならば1~3月に行われ4月に学園に入学という手順が殆どだが、まれに意図せぬ覚醒者が現れることもある。
そういう場合は大抵、教育が強硬軍になりがちである。
ただでさえ人手が不足気味な対抗者は、中途半端な時期に覚醒した人物でも欲しい、しかし教育が疎かなのは論外だ。
そういう事情で短期詰込みが彼らには待っている。
本来なら半年から1年かける教育を、その半分かそれ以下の時間でするとなれば、佐多みさきでなくともウンザリするだろう。
窓の外を見れば、どっぷり日が暮れている。
正義の味方はブラック無糖だったか――
頭を押さえてマニュアルに視線を落とす。
とにかく項目が多い、確かにここ最近はマニュアル化が進み、何事も簡潔、簡単に済んでいるし、もしもの時の携帯装置(デバイス)は非常に役に立つ、しかしそれでもなおマニュアルは人を殴り倒せるほどにぶ厚い。
特にこの「なんとかかんとか」とかいう、有るんだか無いんだか良く分からない支配者に対しての記述がダントツで多い、これでも全体の百分の一以下に抑えているというが、実際は眉唾物だと佐多みさきは大いに思う。
教壇には和服の女の子、妓坐姫が黒板に対抗者心得を簡潔に書き続けている。
この教室には生徒である自分一人しかいないが、彼女は手を抜くということはなく、親身になって教えてくれる。
それはいいんですか、あんまりにもスパルタじゃありませんかね…
まあ、悪い人――失礼、悪い妖怪ではない。
妓坐姫、彼女は妖怪である。
千年都市として覚醒し始めた鹿児島に出現した怪異、それは主に二つに分かれた。
善性か悪性か。
この国には京都という前例があるにはあったが、しかしそれは希少な経験でありノウハウが確立しづらく、本格的なマニュアルを作成するに至らず、対抗手段も限られていた。
その中で悪性である魑魅魍魎は跳梁跋扈し、地元と他都市から派遣された対抗者が結託しても、それは手に余るものだった。
だが、その怪異の中でも善性の協力者がいた。
妓坐姫――彼女は鹿児島で初めて確認された善性の妖怪。
偉大なる古(マイティ・オールド)
そう呼ばれる存在である。
そんな彼女は和服姿の小学校低学年ないでたちで、こんな子が教壇で女子高生相手に弁舌をふるうのは、どうにもちぐはぐだ。
しかしそんな見た目の彼女であるが、齢は実際のところ不明であり、古風な喋りと博識な頭脳は、明らかに老齢のそれである。
まあ、そんなギャップがあるせいで学園内ではたいそうな人気であるが。
そんな彼女でも立場は学園で五指に入る大物でもある。
「さて、本日はこんなものじゃな」
そう言って教鞭をぺしぺし黒板に打ち付ける、ここまでメモしておけば良いぞというサインだ。
それに促されて佐多みさきはノートを取る、これでようやっと今日の授業が終わると、そのペン先はずいぶんと急ぎ足だ。
「そういえば、ぬしの配属先のことなんじゃが」
バリバリとメモを取っている中で、妓坐姫がそう言ってきた。
みさきは手を止めて、疑問符のついた顔で妓坐姫を見る。
なぜこのタイミングで? こういうのは正式な辞令か何かがあるのでは?
そういう疑問をよそに、妓坐姫は続ける。
「その、なんじゃな…花園優紀らの所に配置になったから…な」
いかにもバツが悪そうに言う。
「無論、悪いことなどありゃせんじゃろ、何かと気心の知れた者たちじゃしな、な!」
まあ、確かに学園に入ってから個人的な付き合いがあるにはあるが…
佐多みさきは、どういう表情を作ってよいかわからず、無表情で顔をかいた。
妓坐姫の言うことは解る、この学園に転入して様々なうわさを聞いた、その中で佐多みさきを助けたパーティの面子は、問題児として扱われている、そんな所にいくら面識があるからといって、その問題児と一緒くたに放り込むと宣言しているのだ。
だからこそバツが悪そうにしているというか、しかしそこには決定事項だからという硬い意思も秘められている。まあ体のいい言い訳でしかない。
しかし、そんなに悪い人たちかねとみさきは思う。
まず花園優紀はとても良い人だ、トラブルに巻き込まれたみさきを気にかけて、いろいろと面倒を見てもらった、個人的に友達でもある。
坂口一貴は、たまに近寄りがたい雰囲気を持つことがあるが、しかし普段は気さくな良い人だと思う、まあ地元方言がきついのが難点だが。
後藤千代と祁答院雪名、この二人とはあまり付き合いこそないが、まあ新たにパーティとして優紀とやっていっているらしいので、そこまで悪い人ではないはずだ。
何故かこの二人の話をするとき、優紀の声のトーンが明らかに二段階は落ちるのが謎だが。
しかしふと疑問に思う。
問題児を一緒くたに集めた、とは外野の意見であるが、しかし実績はトップクラスであり、確か今期最も活躍したパーティとして広報にも取り上げられていたはずである。
それに問題児といっても、問題を起こすのは坂口一貴と後藤千代であり、残る二人は優等生で常識人であり、ストッパーとして苦労していると聞くが。
「いや、みさきは後方支援じゃからな、あの面子と一緒に怪異と戦うわけじゃなくな、アレじゃ、通信役というか部活におけるマネージャーみたいなものじゃしな!」
何やら一人でまくしたてて、勝手にうんうん頷いている妓坐姫。
…よっぽどこのパーティ放り込むのが後ろめたいらしい。
「そんなにあの人たちは問題児なんですか?」
あまりにもあまりな妓坐姫の弁論と、実際に知る彼らとのギャップの差に、そう疑問を口にする。
対する妓坐姫は「うん?」と首をひねり、あごに手を当て中空に視線を這わせながら考えを暫く巡らせて。
「あいつら全員、自分のことしか考えてないからのぅ…」
そう感慨深く、ため息までついて答えた。
「いや、違うんじゃ、実力は折り紙付きなのじゃ!」
はっ、と自分の失言(?)に気づいたように被りを振りながら、言い訳のようにマシンガントークが炸裂する。
「まずなんといっても坂口一貴じゃ、あやつの戦闘センスと破壊力は対抗者の中でも五指に入ると言っても過言ではない! まぁそれ以外はてんで駄目じゃが…しかしそれを補って有り余る花園優紀の采配じゃ、あやつの気配りと痒い所に手が届くスキル捌きは、正に一級品の芸術なのじゃ! まぁ性格に難ありで一番腹黒いのじゃが…そういうのを纏めてみせるのが祁答院雪名じゃ、あやつはどこにおいても活躍できるマルチプレイヤーじゃからな、パーティの戦術面でもメンタル面でも、雪名がいればそうそう崩れることはないのじゃ! まあ実際はすっごい我が儘な駄々っ子なんじゃが…そして後藤千代じゃが――」
そこで妓坐姫のトーンが下がった。
あれ、もしかして彼だけノーコメント?
確かにあまり芳しい噂は聞かない、どちらかといえばこの面子に負んぶに抱っこといった風に聞くことが多い。
しかし、妓坐姫からは意外な評価が返ってきた。
「あ奴は天才じゃ」
「は?」
思わず素で聞き返してしまう。
「いやな、おかしいじゃろ、なんじゃ変性意識状態(トランス)って、対抗者は能力が現実を侵食する場合があるが、それはちょっとした変異程度に留まるはずじゃろ!」
そう言う妓坐姫の言葉に、みさきは思い当たる節があった。
あの夏の日に見た、坂口一貴から立ち上る紅焔。
立ち昇る闘気は夕日よりも赤く、はっきり見えた。
「それをあの後藤千代は、モヒカンに世紀末ファッションとか、なんじゃあの規格外は!」
ああ、とみさきは得心がいった、確かにあれは異常だ、ただ戦闘態勢に入るだけでああなる対抗者はいない、ましてや戦闘が盛り上がるや後光がさして摩訶不思議なエフェクトを出すのも常識外れだ。
まあ、そのせいで鼻つまみ者筆頭扱いなのだが。
「対抗者への覚醒は早ければ早いほど才能がある、が定説じゃがそれに当てはまらないのもいるのじゃ、あ奴も時代が違えば英雄とかになっていたのかのぉ…」
感慨深く妓坐姫が呟く。
いや意外だと、みさきは思った。
まさか一番評価されているのが、あの後藤千代とは――。
ここで妓坐姫は、わざとらしい咳払いをして続ける。
「まあ、成績で見れば優秀なエリートパーティじゃから、みさきも安心して欲しいのじゃ」
いや、そんな可愛くウィンクして言われても…
この先に一抹の不安を抱え、佐多みさきは目の前が真っ暗になる感覚に陥った。

余談だが、あのパーティの補佐役として加入した佐多みさきだが、なんだかんだで馴染んでしまい、妓坐姫に「ほぉ~ら、言った通り上手くいったじゃろ?」と、盛大な震え声と冷や汗で評価したという。